
kannonに込めた開発チームの思いをお話しします(前編)
今回は「前編・中編・後編」に分けて誹謗中傷チェッカーであるkannonが生まれたきっかけとその未来についてお話しします。
- 前編:誹謗中傷を受けたきっかけと削除請求
- 中編:弁護士や警察の介入と私の支援者
- 後編:kannonに込めた思い
なぜ「kannon」は生まれたのか?〜ネット上の悪意という見過ごせない課題〜
kannonが生まれたのは、開発チームのひとりが誹謗中傷被害に遭ったのがきっかけです。それも、警察が捜査に乗り出す程の強烈な誹謗中傷でした。
とことん落ち込んだ誹謗中傷
私が誹謗中傷に遭ったのは2025年6月のことです。突然XとYouTubeで誹謗中傷が開始されました。
知ったきっかけは友人からの連絡。友人から「なんか変なの流されているけど大丈夫?」との連絡があり、見てみると…
「【告発】○○株式会社の××は○○県出身で援助交際をしている」
という趣旨の文言が私の写真と共にXに並んでおり、YouTubeでもわざわざ動画を作ってまで同様のことをされました。見つけた当時でXの投稿数は20件ほど、YouTubeはサムネイルまで作りこんだ動画が2本あがっていました。
正直、大変落ち込みました。誰がそのようなことをしたのかは後述の理由で検討がついたのですが、それ以上にネットという海に私の根拠なき情報が晒され、いろいろな方が見て本気にしてしまうかもしれないという恐怖感で頭の中がいっぱいになりました。
誹謗中傷されたきっかけ
誹謗中傷されたきっかけは2024年7月に遡ります。誹謗中傷から約1年前の出来事です。
当時の私は友人経由でとある専門学校に通う女性を紹介されました。仮にその子をA子さんとしましょう。A子さんは保育士の専門学校に通っており、私はたまたま教育業界に身を置いていたため、いろいろな話ができました。年齢も10歳ほど離れていたため、友人というよりも後輩のように感じられ、我々の世代とは違う考え方や教育業界への志を聞いては「まだ高校を出たばかりなのにすごいな」と思っていました。
そんないろいろな話をしていた時に私はふと気になったことがありました。
「A子さんはなぜ保育士になりたいのだろうか…?」
そこで、普段の会話をする勢いで彼女に聞いてみたところ、とても言いにくそうな態度で以下のような話をしてくれました。
「実は私は父親の性的虐待が原因で、中学生の頃に児童養護施設に入所しました。実の父親ではない父親です。児童養護施設で高校卒業まで暮らしていた中で、小さな子どもたちの面倒を見る機会が多く、保育士を目指そうと思ったんです。」
私は、大変共感しました。しかし、同時に気になったことがありました。その前の話で「実家に住んでいる」と聞いていたからです。「性的虐待が原因で施設に入ったのに、戻ったの…?」と思った私は、なぜ実家に戻ったのか聞いてみました。
すると、以下のような答えが返ってきたのです。
「児童養護施設はどこも満杯なので、高校を卒業したら基本的には出所しなきゃいけないんです。私の場合は親が「引き取る」と言い、施設側の緩い審査もすり抜けてしまったので実家に帰らざるを得なかったんです。いまも性的虐待まがいのことがたまにあります。」
いわゆる”フツーの家庭”を出た私には衝撃的でした。そこで、奨学金制度や自治体の補助を使って何とか彼女が一人暮らしをできないか探してあげました。
しかし、答えは「なにもなし」でした。いたたまれない気持ちになった私は、一人暮らしの初期費用を立て替えてあげました。ただし、「いつでもいいからちゃんと返してね。返すことに意味があるよ。」という条件付きでした。貸してあげたのは2024年8月頃の出来事でした。
話がここで終われば、単なる人助けの話です。でも、話はここで終わらず、2025年1月に進みます。
単なる人助けで終わらずに恨みを買った理由
そのころ、私とA子さんは月に一回程度会い、身の上話を聞いたり、生活できているかの確認をしたりしていました。生活が安定してくれば月に数千円でも返済できるようになるだろうなと思っていました。ただ受け取るだけではなく、数千円でも返済していくことが彼女の将来につながると思っていました。
ところが、2025年1月は「それどころではない」姿でA子さんが現れました。なんと坊主頭になっていたのです。理由を聞くと、とある男性とトラブルになり、半強制的に坊主にされたということでした。
それを聞いた私は「坊主は傷害罪の可能性もあるから警察に行ったほうがいいと思うよ。」とアドバイスをしました。それは、私が対応できる範囲を超えていますし、何よりも私のほうではA子さんが具体的にどのように対応すればよいのか判断できなかったからです。
そして、そのような紆余曲折を経て、A子さんは警察へ行き、結果として相手の男性は逮捕されました。逮捕されたのは2025年3月ごろで、保釈は2025年4月ごろだったようです。
「逮捕されたのはよかった」
そう思っていたのは束の間で、逮捕の過程で私に恨みを持った男性が2025年6月ごろからネット上での誹謗中傷をはじめたのです。
人助けして「少しは良いこともできた」と思っていたのに、まさかインターネットでいじめられるとは…全く真逆の方向に物事が進み、非常に驚きましたし、悲しい気持ちになりました。
対抗すればするほど盛り上がる加害者
さて、話を誹謗中傷の件に戻しましょう。XやYouTubeを見つけてから1~2週間のうちに様々な媒体で攻撃されました。
■Wikipedia
自分の名前のページが立ち上げられ、勝手に個人情報を書かれました。Wikipedia側に申し立てて一度は削除されましたが、その後2~3回やられました。
ちなみにWikipediaの削除依頼は「オーバーサイト」が有効です。自分でアカウントを作成して記事内容を変更するよりも早く対応してもらえます。
■note
YouTubeと同様の内容を文章でつらつらと書き連ねられました。削除依頼したところ、数日で削除してくれました(2025年7月ごろ)。ただし、その後情報流通プラットフォーム対処法の施行により、「削除する際の加害者側への通知」も原則必要になりました。そのため、2025年10月ごろに再度書かれた内容は削除に躊躇しました(加害者に通知がいくと加害者を刺激する可能性があるため。)。
ちなみに、noteは日本企業のため削除依頼は比較的受け付けてくれやすいです。削除依頼はこちらの問い合わせフォームです。
■はてな匿名ダイアリー
noteとは違う文章ですが、同じ内容で書き連ねられました。ただし、私の本名は書かず、Xのリンクを貼ったり、私と特定できるような文章をちりばめたりして誹謗中傷していました。
こちらについては優先的に対応するべきコンテンツではなかったため、無視しました。仮に対処した場合であっても、日本企業のため比較的スムーズに削除依頼を受け付けてくれたかと思います。
■自分で立ち上げたサイト
これが厄介でした。私の本名でドメインを取得し、AWSのサーバーを借りて、私を誹謗中傷するサイトを立ち上げていました。本当にしつこいやつです。
まずはGoogle検索の削除依頼フォームから名誉毀損として削除依頼をしてみました。結果的にいくつかのページは削除されましたが、加害者が作成していた「お問い合わせページ」という名のページには”ページ単体”では誹謗中傷要素がなかったため、削除ができませんでした。
そこで、まずはサイトがどのようなサーバーを使っているかをこちらのサイトを利用して調べてみました。すると、AWSを使っていることが判明したため、AWSに事情を説明したところ、あっさり削除に応じてくれました。
ところが、今度はCloudflareを使って防御し、ドメインはNjalla名義になっていました。これは、世間を騒がせた漫画村と同じ手法で、運営者が誰か分からないようになっています。しかも、ネットには「CloudflareやNjallaは何もしてくれない」なんて書かれています。
正直迷いました。しかし、あきらめるわけには行かないので、CloudflareにもNjallaにも英語で問い合わせを送ってみました。すると、確かにCloudflareは「サーバー側に言ってください」というような通り一辺倒の回答しか返ってきませんでしたが、Njallaはあっさり削除してくれました。ちなみに、Njallaのフォームはこちらです。
また、この間、加害者がMailfenceという匿名性の高いメールサービスで誹謗中傷用のメールを作成していたことが分かりました。これについても、問い合わせフォームから「誹謗中傷に使われていて日本の法律に反していますよ」という趣旨のメールを送ると、即時にサービスを止めてくれました。
もちろん、最初にやられたXやYouTubeも下記のような対応をしました。
■X
最初は「報告」や「削除申請」で対応しました。しかし、一向に削除される気配はなく、「違反していないと確認しました」と返信があるだけでした。Xで誹謗中傷にあった方は誰もがこのような返信に「違うだろ!!」とツッコみたくなった経験があるのではないでしょうか?しかし、ツッコんだところで問題が解決するわけではありません。
そこで、私は送信防止措置依頼書をXのアメリカ本社と日本法人に送ってみました。しかし、こちらも反応がありません。
さらに踏み込んで、Xを管轄する総務省に問い合わせを送り、誹謗中傷ホットラインに相談を送り、対応を求めました。すると、たまたまなのか、問い合わせを送ったからなのかは分かりませんが、数日でXアカウントが削除されました。
しかし、その後また同様の趣旨のXアカウントを作られ、そこから数か月間攻防が続きました。
なお、開示請求をすることも検討したのですが、相手側はこれまでの傾向からプロキシサーバーやVPNを利用してXにアクセスしている可能性が高く、開示請求したとしても無駄足になる可能性が高かったため、開示請求はせずに終わりました。
■YouTube
こちらも削除までに少し手間取りました。それは、YouTubeの運営側が”日本基準”ではなく、”アメリカ基準”で削除可否を判断しているからでした。そのため、日本基準で名誉毀損として削除申請を行った際には削除してくれませんでした。
そこで、私の場合は「援助交際」などという性的なキーワードで誹謗中傷されていたため、そのような性的な部分を強調して「名誉毀損」として削除申請をしたところ、数日で”ジオブロック”となりました。ジオブロックとは、地域制限のことで、日本から申し立てをすると、日本のIPアドレスからはその動画にアクセスできなくなります。
ただし、ジオブロックされたとしてもGoogle検索などでは検索結果として表示されてしまいます(アクセスしても再生はされません)。また、VPNなどを通じて動画を再生することはできてしまいます。そのため、私は完全削除を狙ったのですが、名誉毀損だとどう頑張ってもジオブロックが限界のようでした。
そこで、動画のサムネイルに私の自署が載っていたことを利用して、「プライバシー権侵害」で削除申請を出してみました。日本であればそれほど重要視されない印象ですが、アメリカでは自署は契約等にも使用される機会が多いことから、重要視されているようです。
申請してみたところ、数日で動画が削除されました。
ところが、また別の動画をアップされてしまい、そこから数か月間攻防が続きました。