
【実録】生成AI(Gemini)を活用して東京地裁へ「発信者情報開示命令」を申し立てた全手順 ※プロンプト例及び申立書本体あり
YouTubeなどの動画プラットフォームにおける誹謗中傷や風評被害は、テキストのSNS以上に視覚的・聴覚的なインパクトが強く、放置すれば企業のブランドや個人の信用に深刻なダメージを与えます。
しかし、「弁護士に依頼すると着手金だけで数十万円かかる」「かといって自分で裁判所の手続きをするのはハードルが高すぎる」と泣き寝入りしてしまうケースも少なくありません。
今回は、実際にYouTube上で権利侵害動画を投稿された際、生成AI(Gemini)を壁打ち相手・実務サポーターとしてフル活用し、東京地方裁判所(民事第9部)へ「発信者情報開示命令」の申立てを行った実体験をもとに、手続きのリアルな流れと注意点を解説します。
1. 従来よりも迅速化!「発信者情報開示命令(非訟手続)」とは?
これまでインターネット上の投稿者を特定するには、まずサイト運営者(コンテンツプロバイダ)に対して仮処分を申し立て、次に通信会社(アクセスプロバイダ)に対して訴訟を起こすという「2段階の裁判手続き」が必要でした。
しかし、プロバイダ責任制限法(現・情報流通プラットフォーム対処法)の改正により創設された 「発信者情報開示命令」 によって、これらを1つの手続き(非訟手続)で迅速に進められるようになりました。
YouTube(運営元:Google LLC)を相手方とする場合、管轄は 東京地方裁判所 民事第9部(保全部) となります。
2. YouTube特有の壁:「証拠保全」の落とし穴
申立ての準備において最初に直面するのが 「動画の証拠保全」 です。ここにYouTube特有の大きな矛盾とハードルがあります。
- 動画データの提出が求められるが、公式ダウンロードができない:裁判所や警察での手続きでは、権利侵害を立証するために「対象動画のデータそのもの」や客観的な記録が求められます。しかし、YouTubeは規約および仕様上、標準機能での動画ファイル保存が制限されています。
- 投稿者が動画を削除・非公開にするリスク:手続きを進めている最中に投稿者が逃亡し、動画やチャンネルごと削除してしまうケースが多発します。
実践した証拠保全のポイント
- 画面全体のスクリーンショット保存:動画の再生画面だけでなく、「投稿日」「完全なURL」「再生回数」「概要欄」がすべて1画面に収まる形でスクリーンショットを撮影します。
- 画面録画による通し記録:動画の冒頭から末尾まで、音声を含めて画面録画を行い、発言内容(名誉毀損や業務妨害にあたる部分)を確実に記録します。
- チャンネルホーム画面・概要欄の保存:投稿者アカウントの固有ID(ハンドル名およびチャンネルID)が分かるページも併せて保全します。
なお、YouTubeでの削除請求においては、チャンネルURL、動画のURL、動画の投稿日、動画のタイトルなどの記載は必ず求められます。手続きには証拠が必要となりますので、しっかりと画面録画やスクリーンショットで残しておくようにしましょう。
3. 生成AI(Gemini)を活用した申立書・目録の作成プロセス
裁判所に提出する書類は、定型の書式と厳格なルールに基づいています。今回は以下の書類作成および手続きの整理にGeminiを活用しました。
- 発信者情報開示命令申立書
- 当事者目録(申立人および相手方Google LLCの表記)
- 発信者情報目録(開示を求めるIPアドレス、タイムスタンプ、電話番号、メールアドレス等)
- 投稿記事目録(対象動画のURL、タイトル、投稿日時等の特定)
- 権利侵害の説明(どの発言が、なぜ社会的評価を低下させるのか、事実無根であることの論理的構成)
- 疎明資料(陳述書・証拠説明書など)
これらの手続きについて詳しくない場合には、一度Geminiにそれぞれの書類の役割を聞きながら進めてもいいかもしれません。実際、私も手続きを進める途中で分からない文言が出てきた場合には、都度Geminiに意味を尋ねていました。
※書類参照元
裁判所 発信者情報開示命令申立て(電子申立て不可)
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html
Geminiが特に役立った3つの場面
① 「権利侵害の明白性」の論理構築と推敲
裁判所に開示命令を出してもらうためには、単に「悪口を言われて傷ついた」という主観ではなく、 「社会的評価の低下」 および 「違法性阻却事由(公共の利害や公益目的、真実性)が存在しないこと」 を客観的かつ法的な構成で説明する必要があります。
動画内の発言文字起こしをGeminiに読み込ませ、「名誉毀損および業務妨害の観点から、権利侵害の説明書のドラフトを作成して」と指示することで、感情論を排した論理的な書面ベースを短時間で作成できました。
② 複雑な手続選択(提供命令の有無など)の整理
開示命令の申立てでは、「提供命令」や「消去禁止命令」を同時に申し立てるかどうかの判断が求められます。
YouTube(Google LLC)の場合、アカウント登録時や認証時に用いられた「電話番号」や「メールアドレス」を保有しているケースが多く、アクセスプロバイダに対する提供命令を併用するかどうかで手続きの進行や論点が変わることがあります。Geminiで裁判所の運用書式や要件を確認しながら、自社のケースに最適な申立て方針(開示命令に絞って論点を明確化するかの検討や、訂正申立書への対応など)を整理できました。
③ 海外法人(Google LLC)特有の必要書類の確認
相手方が米国法人であるGoogle LLCとなり、外国法人の登記簿謄本が必要になります(日本の法務局で取得可能です)。こうした見落としがちな必要書類のリストアップと進行スケジュールの管理も、AIとの壁打ちによってスムーズに進めることができました。
4. 【実践例】実際にGeminiへ指示したプロンプトの具体例
裁判手続きの書面作成では、AIに「どういう立場で」「どの裁判所の基準に合わせて」「何を出力してほしいか」を具体的に指示することが重要です。実際に今回の手続きで使用したプロンプトをベースに、実務で使える3つのプロンプト例をご紹介します。
プロンプト例①:動画の文字起こしから「権利侵害の説明」を作成する
動画内の発言は話し言葉であり、文脈が散らかっていることが多いため、まずは文字起こしテキストをそのまま貼り付け、法的要件に当てはめて整理させました。なお、文字起こしについてもGeminiを使用しました。
【入力したプロンプト】
「東京地方裁判所(民事第9部)へ、YouTubeの動画を巡る発信者情報開示命令の申立てを行います。以下の【対象動画の文字起こし】と【事実関係】をもとに、別紙『権利侵害の説明』のドラフトを作成してください。
構成は以下の通りとし、感情的な表現を排除して裁判所向けの客観的な文体(である調)でまとめてください。
- 対象動画の特定および発言内容の摘示(タイムスタンプごと)
- 同定可能性(当該発言が申立人を指していることの説明)
- 社会的評価の低下(名誉毀損・信用毀損に該当する理由)
- 違法性阻却事由の不存在(摘示された事実が虚偽であり、公益目的もないこと)
【対象動画の文字起こし】:(※ここに文字起こしテキストを入力)
【事実関係】:(※実際の事実や反証できる客観的証拠の概要を入力)」
プロンプト例②:Google LLC相手の目録作成と「提供命令」の要否判断
YouTube特有の開示対象項目(ログイン時IPアドレスや電話番号など)の書き方や、手続選択のメリハリをつけるための壁打ちプロンプトです。
【入力したプロンプト】
「Google LLCを相手方として、YouTube動画に関する発信者情報開示命令申立書を作成しています。
- 東京地裁民事第9部の最新書式に準拠した『当事者目録(Google LLCの表記・代表者記載含む)』と『発信者情報目録』の記載例を出力してください。
- 今回のケースでは、Googleが保有する電話番号・メールアドレス、およびアカウント作成時・ログイン時のIPアドレスの開示を求めています。この際、提供命令や消去禁止命令を同時に申し立てる場合と、開示命令単体で申し立てる場合の実務上のメリット・デメリット、および手続きのスピード感の違いを整理してください。」
プロンプト例③:裁判所書記官からの連絡(補正・訂正申立て)への対応
申立書を提出した後、裁判所の書記官から「申立ての趣旨や目録の記載を一部修正してほしい」といった連絡が入ることがあります。こうした専門的な修正対応にもGeminiが活躍しました。
【入力したプロンプト】
「東京地裁民事第9部に提出した発信者情報開示命令申立書について、担当書記官から連絡があり、申立ての趣旨および目録の記載を一部整理・修正することになりました(提供命令の取下げ・開示命令への一本化に伴う修正など)。
当初提出した【元の申立書の記載】から、裁判所の指示に沿った【修正内容】へ変更するための『訂正申立書』の書式と文面を作成してください。また、提出時に必要な正本・副本の部数や添付書類の扱いについても確認させてください。」
このように、自分の状況を具体的に入力してAIに叩き台を作らせることで、ゼロから書式を調べる時間を大幅に削減し、証拠集めや事実関係の精査に集中することができました。
5. 書類は最初から間違いないものを出す必要があるのか?
答えはNOです!
裁判所と聞くと法廷のイメージが強く、完璧なものを提出しなければならない印象があるかと思います。私もそうではありましたが、実際に東京地裁の民事第9部に行ってみると、2Fの階段で行けるような場所に民事第9部はあり、カウンター式の受付で担当の職員の方が丁寧に資料を見てくれました。
ここでは要式しかチェックしないようですが、それでもホッチキス止めの位置や証拠の用意方法、コピーの有無など丁寧に教えてくれました。不安であれば、ある程度書類がそろった段階で電話してしまうのもいいかもしれません。
なお、東京地裁の場合には、地下に郵便局やコンビニがあり、レターパックの用意やUSBメモリの準備、コピーの用意などもそこで完結することができます。
6. 手続きにかかる期間と今後の流れ
東京地裁民事第9部へ申立書一式と疎明資料を提出した後は、裁判官による審査、相手方(Google側)への意見照会・反論確認、そして審尋(書面または期日)を経て、開示命令の発令へと進みます。
ただ、私の場合にはGoogle側の反論はなかったようで、裁判官の指示のもといくつか書類の訂正をした後に、すぐに開示命令の発令へと進みました(裁判官からの書類の訂正指示には提出期限があるようです。私の場合は期限を知らず、職員の方から催促電話が来てしまいました。)。
- 期間の目安:申立てから開示決定まで概ね4ヶ月〜6ヶ月程度
- 開示後のステップ:Googleから対象アカウントの電話番号やIPアドレス等が開示された後、弁護士会照会(23条照会)やアクセスプロバイダへの開示請求を経て、最終的な投稿者の氏名・住所を特定し、損害賠償請求や刑事告訴へと進みます。
7. Google側からどのように連絡が来るか?
Google側の弁護士さんから電話で連絡が来ました。大手法律事務所の弁護士さんでした。
Google社内の処理の都合上、申立書などのwordでのデータが必要になるとのことで、データをメールでお渡ししました。、また、結果についてもメールで回答するとの連絡をもらいましたが、この記事を書いている「連絡から3か月後」の時点ではまだメールは届いていません。
海外プラットフォーム事業者の場合は、概ね同じような流れになると思いますし、最初に裁判所からお電話をいただいたときにも「最近はGoogle等が全然開示請求に応じないので、それは理解してください。裁判所であっても開示請求に応じないことはよくあります。」と教えていただいています。
そのため、裁判所の命令という強制力の強い方法であったとしても、開示請求に過度な期待は禁物です。
8. 誹謗中傷対策は「事後の手続き」以上に「早期検知と証拠保全」が命
今回、実際に裁判所での開示命令手続きを行って痛感したのは、**「いかに早く悪質な投稿に気づき、消される前に完璧な形で証拠を押さえるか」**がすべての勝負を決めるという点です。
どれほどAIを使って精緻な申立書を作成できても、元の動画URLや画面キャプチャ、投稿日時の証拠が欠けていれば、裁判所は開示を認めてくれません。また、動画が拡散されてしまってからでは、仮に後から投稿者を特定できても、失われた信用を取り戻すには多大な時間とコストがかかります。
AI誹謗中傷モニタリングプラットフォーム「Kannon(カンノン)」 では、SNSや掲示板上のリスク投稿や風評被害を24時間体制で自動検知し、法的措置や削除請求に不可欠な初期対応を強力にバックアップします。
「自社名やサービス名で悪質な投稿が出回っていないか不安」「万が一の際の証拠保全や対策フローを整えておきたい」という方は、ぜひ一度Kannonまでご相談ください。
9. 申立書の例
以下は実際に裁判所に提出した申立書です。修正部分もありましたので、参考程度にご利用ください。















